20 ホットライン(3)

「兄弟、私も核シェルターに入れてもらえるんでしょうねえ?」
 モスクワには山手線の内側よりも広い核シェルターがあると聞いていた。こうなった以上、その中に入れてもらう以外に生き延びる道はなさそうだった。
 ブラジャネブは不安そうな表情をしている修太郎を見て笑った。
「心配するな、兄弟。ジェリーと俺とはいつもこうなるんだ。もう少ししたら向こうから連絡してくるさ」
 しかし、ブラジャネブはすぐに真顔になった。
「よくフォラードの嘘が判ったな。日本の忍者はKGBより優秀なようだな」
 まさか、当てずっぽうとは言えないので、修太郎は笑って誤魔化した。
 ほどなくして、アメリカからのホットラインが繋がった。フォラードの隣にはプッシュがいた。
「なあ、レオン、短気は起こすなよ。俺は腹を割って喋ったんだ。今更45トンも200トンも関係ないだろう。どの道伽国呆が失敗したら、水爆を落とすしかないんだ。今ジョージとも相談したんだが、全面的に君の提案を呑むことにしたよ。特攻隊に北京を爆撃させよう。沿岸部の都市は潜水艦で始末する。重慶とか成都などの内陸はこっちも手を出しにくいから、そっちにまかせてもいいだろう?」
「最初から、そう言うふうに話してくれればよかったんだ。前にも言ったが、使うのは中性子爆弾にしよう。放射能が消えたら北緯30度線あたりで分割しよう」
「30度とは殺生だな。35度辺りが真ん中だぞ。しかし、今はそれどころではないだろう。潜水艦や第七艦隊を配備するには一週間かかるんだ」
「いったい伽国呆はいつクーデターを起こす気でいるんですか?」修太郎が尋ねた。
 フォラードとプッシュは顔を見合わせたが、プッシュが喋った。
「ミスター児玉、伽国呆からは今月中としか聞いていない」
「それまで耄沢蕩はもつのか?」今度はブラジャネブが尋ねた。
「判らない。もたないかもしれない」フォラードが自信なさそうに答えた。
「しかし、核ミサイルの件なら大丈夫だ。実は糠青とは話をつけてあるんだ。糠青は耄と心中する気はない。耄が持っている核ミサイルのリモコンはイミテーションだ。ただ、耄を神と信じている狂信家の取り巻きも大勢いるから、糠青もばれないように神経を使っている。糠青は耄が死んだら同時に狂信家達を始末する段取りになっているんだ」
「なるほど、それなら一安心だな」ブラジャネブは頷いた。
「しかし、糠青がうまくやる保証はないでしょう?」修太郎が詰問した。
「糠青がしくじったら、世界はジ・エンドだ」
「糠青の周辺にはCIAの工作員を大量に派遣してある。狂信派グループの中にも入れてある」そう言って、フォラードは思いついて尋ねた。
「どうせKGBも工作員を派遣しているんだろう。この際だからお互いに名前を確認し合ったほうがいいんじゃないか?」
「その通りだよ、ジェリー。よく気付いた」
 ブラジャネブは部下に命じて、KBG議長のアンポロドフを呼びにやらせた。
 隣の部屋に控えていたのか、アンポロドフはメモを片手に部屋に入ってきた。
「ここで名前の確認など悠長なことをやっている暇はない。別の回線を使ってやろう」
 ブラジャネブがこう提案すると、フォラードも同意したので、プッシュとアンポロドフは別の部屋に消えた。
「そして、糠青を始末するのが伽国呆なんですね?」修太郎が尋ねた。
「そうだ。女なんかに核ボタンを握られてたまるか! と言いたいところだが現実に握られているんだ。糠青は凄いヒステリーなんだ。興奮すると見境無く辺りの物を壊しにかかるらしい。側近がリモコンを奪い取って危機を凌いだことが幾度もあるんだ」
 フォラードは困惑した表情だった。
「その側近というのは俺の部下だよ」ブラジャネブはうんざりして言った。
「そうだったのか! 合点がいった。気の毒に、止めた罰に玉を抜かれてペニスを切断されたんだってなあ」
「糠青に食われちまったよ。若返りの漢方薬だそうだ」
「糠青は今日本のアイドルグループの何とかにご執心だそうだ。ビデオテープを集めたりレコードを集めたりしているらしい。今度北京に呼ぶとか言っていたぞ」
 そこへプッシュが戻ってきた。
「それはフォーツイグズというアイドルグループです、閣下。特にボッキンというニックネームの少年に興味があるようです」
 ボッキンはフォーツイグズのリードボーカルをしている少年で、人気も一番高かった。「フォーツイグスを餌に糠青に接近してもいいな。ボッキンに奉仕させているところを、伽国呆のクーデター軍が襲えば、糠青を拉致できるかもしれない」
 と修太郎が言うと、フォラードはにやりとした。
「なるほど、お楽しみの最中なら、リモコンから手を放しているからな」
「兄弟、俺の頼みを引き受けてくれる気になったのか?」
 ブラジャネブは修太郎の肩を叩いた。
「本当はこんなやばいことをしたくはないが、情況が情況だけに仕方ない。さあ、これから段取りを決めましょう」
 プッシュとアンポロドフも加わり五人で計画を練った。注: 文字用の領域がありません!
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