2 ソビエト連邦書記長 (2)

修太郎はKGBと相談して国家経営がいい加減なイランに目をつけることにした。イランは外見上国王による独裁体制が安定しているような印象があったが、内実は深刻な宗教対立、貧富格差の拡大、官僚の構造汚職などと問題を目白押しに掲げていた。国王のパーレーも表面的には親米派の顔をしていたが、裏では金のためには何でもやる男だった。
「パーレーに鼻薬を嗅がせればなんとかなりませんかねえ?」と修太郎が言うと、
「パーレーはOPECでサウジアラビアのハゲドーと主導権争いをしている奴だぞ。そいつがOPECの足を引っ張るようなことをするかねえ」とKGB側は訝しんだが、
「パーレーは自分のところの産出量がサウジアラビアに及ばないのを僻んでいる。それに、OPEC内で支持を集めるために実弾攻撃をする必要があるから、この話に乗ってくるかもしれないぞ」
 と言う者もいた。この男はKGBの中では中東情勢通だった。KGBは結局この男意見を信用して交渉を進めることにした。
 ほどなくして修太郎はKGBからイランとの交渉に成功したという連絡を受けた。
 修太郎は自分一人でことを進めるのではリスクが大きいと判断して保守党の政治家にも一枚噛ませることにした。
 あまり派手に行動はできないので、修太郎は派閥の中では一番ぱっとしない二木派に接近した。二木派の事実上のオーナーは海運業者の川本だったので、修太郎は二木の頭越しに川本に話を持っていった。
 川本は修太郎の話の危険性に身震いしたが、自前の海運会社が左前だったので、うまく行けば立ち直るチャンスかもしれないと考えた。
 川本はこの話に福畑も乗せるよう要求した。あまり政治家を多く引き込むと自分の利益も減るので修太郎は嫌だったが、その分リスクも減るのでやむを得なかった。現首相の最大のライバルと目される福畑は法曹界や警察に絶大な権力を持っていた。福畑は次期総理大臣の座を狙って、失政を続ける畑中に猛チャージをかけていた。
 現ナマを喉から手が出るほど欲しがっていた福畑は一も二もなくこの話に乗ってきた。
「警察は俺が黙らせるから、マスコミにばれないようにうまくやってくれ」と福畑は太鼓判を押した。
 川本は入陰石油にイランからの輸入計画を持ち込んだ。入陰石油は石油業界では老舗的な存在ながら、メジャー系列の石油会社にシェアを奪われ続け、今回のようなメジャー系列以外のルートの閉め出しに遭うと、たちまち経営状態が危機的状況になっていた。
 入陰石油は成りふり構わず話に飛び込んできた。入陰石油は正規ルートでもソ連原油を取り引きしていたので、密輸が発覚した場合でも言い逃れしやすかった。これで販売ルートが確保できたので、修太郎はKGBと話を煮つめた。
 入陰石油自前のコンビナートがある徳山にウラジオストックから直接密輸することにした。タンカーは川本の経営する二光汽船が手配することになった。川本は休業中の捕鯨母船を買い取り、韓国の造船所に依頼してタンカーに改造させた。船籍はリベリアにし、所有者はイラン人の名義にした。このようにして、ソ連の原油はイラン原油として処理されるようになった。
 福畑は畑中首相の金脈問題をマスコミに流し、子飼いの検察官を動員させて、畑中側の動きを封じた。
 修太郎は東奔西走して話をまとめたが、その結果得た報酬は、全体の利益の五パーセントだった。法務省の役人に電話をかけただけの福畑は10パーセントの利益を得た。修太郎は頭にきたが、中央の有力政治家とコネクションができたことで我慢することにした。
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