4 政争 (2)

福畑との面会の場所は、月並みながら都内の料亭にした。
「本当に半年後に政権を譲るんだな?」福畑は疑り深そうに修太郎を見やった。
「二木先生も川本先生も了解しています。一度でも総裁になれば二木先生も面子が立つし、二木先生ご勇退後には川本先生が二木派を引き継ぐことになります。川本先生は福畑先生のもとで幹事長をやらせていただければ満足だとおっしゃられています」
「なるほど、そういうことか。自分の派閥を大きくして俺の次を狙おうというんだな。確かに今の二木派の勢力では仮に政権を取っても維持することは大変だからな。川本君の幹事長というのはちょっと厳しいがなるべく実現できるよう努力してやるよ」
 と、福畑は既に総理大臣になったような調子で喋った。
 お世辞を並べ立てて、福畑から金を出すことに同意させた修太郎は、川本の依頼を受けて次に外古葉と接触することにした。しかし、いきなり外古葉のところに行ったのでは足もとを見られてふっかけられる恐れがあった。
 そこで、準備工作として小平に会うことにした。小平とは議員会館で接触した。既に修太郎の存在は永田町では知れ渡っていたので、何をしに修太郎が来たのかと疑心暗鬼になる者も多かった。
 秘書同伴で応対した小平はいつもの無表情だった。
「俺は忙しいんだ。福畑君と川本君から依頼されたとはどんなことかね?」
「実は池畠先生の記念会館を建設する相談なのです」
 小平は意外な表情をした。当然福畑か二木の総裁選出馬に協力を要請する話だろうと踏んでいたからだ。
 修太郎は池畠の業績を褒めちぎり、都内に会館を建て、最上階を博物館にし、会館の入り口に池畠の銅像を建てる計画を話した。そして、他派閥が音頭取りをしては小平の顔が立たないだろうから、立案者に小平の名前を使いたいと申し出た。
 小平は考え込んだが、反対する理由は思いつかなかった。小平派からも記念会館設立の話は数度昇ってきたが、見返りの少ない事業なので資金難を理由に立ち消えになっていた。修太郎の計画では超党派でやろうというもので、保守党の国会議員が全体の三割を負担し、保守系の地方議員が二割、民間が五割負担する内容だった。保守党割り当ての中で、小平派は三割の負担でよく、全体的な負担額では一割以下で済むことになっていた。それでいて、立案者筆頭に小平の名前が乗るのだから悪い話ではない。
「もうしばらく考えさせてくれ」
 小平は即答を避けたが、承諾しようと考えていた。しかし、この政局が急を告げている時に呑気な話を持ってきたものだと呆れた。福畑や川本はいったい何を考えているのだろう? 恩を売って、俺を畑中から引き離そうという算段だろうか? 修太郎は会館建設以外の話は一切しないで早々に引き上げたので、小平としては疑念を深めることになった。
 修太郎が小平のところに行った情報は外古葉の耳にも入った。当然、福畑と川本が小平を自陣に引き入れる工作をしているものと思われた。噂によると小平は好意的な応対をしたという。小平が福畑と組めば、自分からキャスティングボードの座が離れる結果になる。これは由々しき事件だった。
 外古葉が煩悶していると、修太郎から面会の連絡があった。畑中からは「児玉には会うな」と命じられていたが、外古葉は会うことにした。もし、福畑が政権を取り、畑中が逮捕されてしまえば外古葉はたちまちのうちに資金繰りに窮することになる。俺は勝ち馬に乗らなくてはならないのだ。福畑と川本が提示する金が畑中より多ければ寝返るつもりでいた。福畑についてしまえば自分に総裁の目はないが、今はそれどころではない。同じ選挙区で犬猿の仲の福畑の風下に立つのは断腸の思いだったが、不良債権をなんとかしなければ自分の政治生命が終わってしまうのだ。
 都内の料亭で修太郎は外古葉と面談した。外古葉は不遜な態度をとっていたが、修太郎には内心の怯えが見て取れた。両者の間で厳しいやりとりが交わされたが、修太郎は予定額の範囲内で外古葉の買収に成功した。
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