17 ミグ戦闘機亡命事件(4)


「そうなんだ。耄の周辺は狂信者で固まっているから、耄が自分で押さなくても、やつらがボタンを押してしまう」
「アメリカもとんでもない国に核物質を売りつけたものだなあ。耄の長寿を祈るしかないのですか?」
「ところが、耄は癌に冒されて、もういくばくもないんだ」
「それは偉いことだ! ホットラインでフォラードに話しましたか?」
「話したけれど、あの馬鹿、自分の選挙のことで頭がいっぱいで、俺の話を信用しないんだ」
 修太郎もことの重大さが呑み込めてきた。
「中国のミサイル技術は未熟なはずです。迎撃ミサイルで打ち落とせないのですか?」
「性能の悪いのが仇なんだ。軌道がいい加減だから、コンピューターで計算しにくいんだ。下手な鉄砲数撃ちゃ当たるの理屈で飛んでくるミサイルを、全てを迎撃するというのは絶望的だ」
「しかし、こんな大事な時に、何故ベロンコなんぞに偽装亡命させたんですか。変じゃないですか?」
「この危機を阻止するために中国に大量の工作員を送り込んでいるんだ。もう時間に余裕がない。アメリカが協力してくれない以上、自前で解決するしかない。これから中国で暴れなければならないから、ほかのことで注意を引く必要があったんだ」
「それが本当なら、さっきは失礼なことを言ったようですね。しかし、こんな重要なことを私にぺらぺら喋ってもいいのですか?」
 ブラジャネブは修太郎の鼻先に自分の顔を突っ込ませた。
「もう、時間が無いんだ。俺はおまえが信用できる男だと見込んだから喋っているんだ。おまえなら糠青に会えるんじゃないか? 何とか糠青に会って説得してくれないか? 今中国で耄を押さえられる人間は糠青しかいないんだ。糠青は西太后よろしく権勢をふるっているから、命は惜しいはずだ。耄なんぞと心中する気はないに違いない。糠青を煽てて、耄が死んでも、核のボタンを押さないように話してくれ」
「私が単身中国に乗り込めというのですか? 私だって自分の命は可愛いんですよ」
「仮に中国の核ミサイルが日本に落ちなくても、自動的にわが国のミサイルが中国を報復攻撃する。これだけで世界中の高等生物は放射能で死滅するんだ。アメリカのミサイルだって飛んでこないとは限らない。どの道、アメリカのミサイルはほとんど関係ないけれどもな」
「報復は自重して、中国のミサイルを迎撃することに専念できませんか? アメリカに協力は求められないのですか?」
「フォラードの馬鹿は俺の話を信用していないと言っただろう!」
「CIAは何をやっているんだ! 正確な情報をフォラードに伝えていないのですか?」
「長官のプッシュという野郎はくせものなんだ。野心家で大統領の椅子を狙っている。密かにカッターとつるんで、カッターの後釜に座る気でいるんだ。そのためには脅賄党内で足場を固めるために、フォラードの失政を期待しているんだ」
「それじゃあ、プッシュがフォラードに嘘報告しているというのですか? プッシュとはコンタクトを取りましたか?」
「いや、まだだ」
「KGBとCIAとの間にはホットラインがあるんでしょう。それを使ってみてはどうですか?」
「よし、やってみよう」
 ブラジャネブは部下に早口で命令した。部下は慌ただしげに部屋を出た。
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