第一章  

 ゴータマ師は、ヴァイシャリー市郊外の林間にあったアームラバーリーの道場で、数十人の修行者達と生活していた。
 小じんまりした道場だったが、名士や比較的知名度の高いヨーガ行者などがたまに来訪することが知られ、見物や相談に来る一般人も多かった。

 修行者達は道場の前面にあるマンゴー林を伐採しただけの庭で修行していた。
 彼らの風体は一様にみすぼらしく、容貌や表情も今一つ垢抜けしてはいなかった。
 切り株にしゃがんで瞑想している修行がほとんどで、その風景からは訪問者が興味をそそるような要素を見つけることは困難だった。

 当時の常識として、修行者は苦行しているほど徳が高くありがたみがあるとされていたので、大方の訪問者達は拍子抜けした。
 もし、この道場が病気治療に卓越した実績がなかったならば、彼らの多くはみすぼらしい道場の内部に進む意欲をなくしてしまったかもしれなかった。

 しかし、彼らの布教活動は当時のインドでは革新的なものだった。
 この当時、修行者達のあらかたは、自分の霊格向上を至上の目的として、自らを律して厳しい修行にあけくれた。
 だが、他人のためにどうするという発想は持たなかった。
 修行者のサポーター達は彼らの修行ぶりを見て、尊敬の念から一方的に奉仕をした。
 修行者も当然のごとくそれを受け取り、たまに気紛れに病気の治療などをすることもあった。
 だが、基本的にはサポーターに何らかの福徳を授けることはなかった。
 有力なバラモン(聖職階級)やヨーガの達人には弟子を受け入れる者もいた
 だが、彼らも懇願されて弟子入りを認めてやるパターンを取っていた。
 高名な修行者は気紛にしか弟子を取らなかったが、謝礼を条件に比較的簡単に弟子入りを認める者もいた。

 ところが、ゴータマ師は、弟子達に一切の謝礼を要求しない代わりに、積極的な布教活動を命じていた。
 依頼者から要請がなくても、積極的に大衆の中に近づいて、悩める者の心を慰め、また、入門者の募集活動も行うよう指示したのだった。

 以上のような理由で、教団にはさまざまなレベルの弟子がいたので、全員に対する最低限の規律を徹底させるために、単純化された三種の方針を基本教理を掲げていた。
「覚者であるゴータマ師に絶対服従することと、
ゴータマ師の教理を無条件で信じること、
教団の方針に従うこと」
 以上を三つの宝と称し、弟子達は必ず三宝を守るように厳命されていた。

 インドのように人口過剰な地域には、人や動物ばかりではなく肉体を持たない様々な種類の霊体も数多く存在した。
 それらの霊体の中で、自ら発するエゴイズムの想念で他の霊体を汚染するものを修行者達は悪魔と呼び、恐れた。
 悪魔はエゴイズムの快感にひたれる肉体を渇望しており、霊的な修行をしている人間は霊体と生体とが分離しやすい状態になっているために、悪魔達からみれば憑依する格好の存在だった。

 また、弟子達の内でも、未熟な者はエゴイズムの罠に陥り、一般人とトラブルを起こした。
 これらはゴータマ師の評判を不快に思う他教団からの中傷の材料となった。

 ゴータマ師は弟子達の霊格向上の妨げとなる障害を排除するための修行カリキュラムを考案した。

 その方法は、精神状態を「真空」と呼ばれる状態に誘導することによって、宇宙に内包する無限の知識を理解させるというものだった。

 この理論はインドのインテリ間では常識的な内容だった。
 だが、これを獲得するための実践法としては瞑想と苦行が中心だったものを、ゴータマ師は戒律を守る修行法と講義による学習に変えた。
 更には一般人との接触を重要視し、ボランティア活動・宣伝活動・寄付活動などを積極的に行わせた。

 資金集めに関しては弟子達も熱心だったので、資金繰りは見た目よりも潤沢だった。

「真空」についてゴータマ師は次のように解説している。

「私は瞑想によって次のことを知った。

 自分の心を常に何ものにも邪魔されない自由の境地に誘導する。  私は静かな無の瞑想の中に入ってはいるが、同時に宇宙空間に記録された膨大な知識や能力を知覚できるようになった。
『無』すなわち『真空』の中には宇宙の全てがあったのだ。
 と同時に、今まで知覚されていた世界が、実は流動的で不安定な現象の空間であることがわかった。

 この『真空』の状態になると、人にものをやっても惜しいなどというけちな料簡はなくなる。
 私の定めた規則を抵抗なく守ることができるようになる。
 忍耐力が飛躍的に増強されて、どのようなことでも我慢できるようになる。
 獲得された様々な能力は、この現象空間でも行使できるようになる。

 つまり、正確に宇宙構造の認識することによって、エゴイズムを離れた精神状態に到達するということだ。
 一度この状態になると再び無知の精神状態に逆戻りする心配がなくなる。
 他者にこの状態を説明することもできるようになる。
 宇宙で起こる全ての現象がわかるようになる。
 同時に全ての人間の本質もわかる。

 この状態になると、自分が現象空間の世界での世間一般の人間よりも優れた存在であることが自覚できる。
 身分制度など無意味であることがわかる。

 宇宙知識はこれを理解した者の肉体にも影響を与える。
 肉体は強靭になり、容姿は端麗になる。
 世俗的なアクセサリーで身を飾らなくても、肉体からほとばしるオーラ(半物質状の光線。様々な波長が混在しており、肉眼で確認できるものから、霊視によって見えるものまである)が燦然と輝くのである。

 真空を理解した者は高級霊からも賞賛され、このイェンブー銀河(地球が所属する銀河系)の中心部まで名声が轟くことになる。
 その精神状態は例えればダイヤモンドの結晶構造のようなものである。 
 宇宙知識は永遠不滅であり、全宇宙を覆っている。宇宙知識の波動は精妙甘美であり、それを感知した者は恍惚状態になる。

 現象世界の因果関係を理解して、さまざまな間違った解釈を否定しているから、存在の有無に固執する相対的な価値観に陥ることはない。

 真空の説明を求められれば、恐れを抱くことなく説明することはできるが、世間一般の人間がその説明を聞いても、理解することはできない。

 真空の存在を一般の人間に理解させるためには、実践的な行動を取る必要がある。それは海底を熟知した老漁夫が、経験の浅い若者達に場所を教えて、海の幸を採らせる行為に似ている。
 真空を理解した者はボランティア霊(菩薩・聖霊・天使・守護神に該当する霊体)となり、低次元の霊界やそこにいる霊の心の働きをよく知り、相対的関係から超越した自由自在な能力が備わるのである。

 ボランティア霊になれば再び低次元の霊界に再生することはない。 しかし、彼らの多くは再び低級霊界に転生して低級霊の向上のために尽力する。

 低級な未熟霊は己れの霊性の変質のために、全てが病気の状態にある。
 ボランティア霊は病気の症状に応じて、真空のエネルギーを変化させ治療に当たる。

 ボランティア霊は全宇宙に存在し、職能に応じて救済活動に勤めている。
 ボランティア霊の中で一定の実績をあげた者は、覚者に昇格し、宇宙と合体して真空に戻るのである」

 イェンブー銀河内に存在するボランティア霊はその資質に応じておよそ次のような班を任されていたが、その職務権限はいずれも銀河内に限定されていた。

 系内巡回査察班・特別捜査班・現象空間制御班・宇宙法班・宇宙法検査班・系内エネルギー送信班・系内エネルギー変圧班・系内エネルギー増幅班・エネルギー貯蓄班・エネルギー自動制御班・一般エネルギー手動制御班・特殊エネルギー手動制御班・エネルギー長距離制御班・系内補修班・エネルギー探査班・エネルギー開発班・エネルギー解析班・系内記録班・系内記録整理班・系内霊別記録班・系内特別記録班・巨大構造班・微細構造班・無自覚記録保管班・空間物質班・霊界班・未熟霊班・電気エネルギー班・治療班・音量制御班・広報班・ブラックホール班・嗅覚信号解析班・教育班・労働班・芸術班・宇宙法整備検討班・空間移動制御班・時間移動制御班・法構造班・対ボランティア霊配置班・残務処理班・対ボランティア霊厚生班・勤務査定班・査定監査班・次期覚者班・マネージメント班などが主立った班だった。
 この組織に所属する高級ボランティア霊は銀河内に三万二千体存在した。

写真提供

ネパール政府
インド政府観光局
NASA

その他




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