プールナはカーシャパとスブーティに挟まれるようにして座っていた。先程から彼は長老達の話を憮然とした表情で聞いていた。

 ゴータマ師は次にプールナを呼んで同様のことを告げた。

 プールナも断ってきた。

「プールナ君。君もヴィマラキールティ君と何やらあったようだね?」

 ゴータマ師が少し皮肉めいた口調で尋ねると、
「尊師よ。彼は言葉による説法を否定しているのです。そんな人相手に言葉による相談をするなどと言うことは不可能です。
 私が思いますに、彼は超人的な能力を持った霊能者ですが、我が教団にふさわしい人物かどうかは疑問です」

 プールナの喋り方が気色ばんでいたので、ゴータマ師は失笑をこらえるのに苦労した。
「いったいどんなことがあったんだい。話してくれないか?」

 ゴータマ師に促されてプールナは話し始めた。
「半年も前になりますが、この寺の南にある大きな林の中のある木の下で、初心の弟子達のために指導していた時のことです。
 その時、あのヴィマラキールティさんがやってきて、私に向かって言いました。
『今日は、プルーナさん。お見受けしたところ、あなたはお弟子さん達にチャクラの開発法を指導なさっているようですねえ』

 その時私は、彼が偶然そこに通り掛かり、ただ挨拶を述べただけだと思いました。
 そこで、私も軽い気持ちで通り一辺のことを言いました。
『これはヴィマラキールティさん。珍しい所でお会いしましたね。
 そうです。尾骨から入った宇宙エネルギーを下腹部・臍・心臓へと上昇させ、喉元に至らせる訓練を行なっておりました。
 この者達はすでにその修行を終えました。
 今私は霊眼を得るための心構えを解説していたのです』

 すると、彼は待ってましたとばかりに、挑発を始めたのです。
『ねえプールナさん。初心者相手にいきなり言葉で指導しても、あまり理解してもらえないんじゃないでしょうかねえ?』

 彼は在家のくせに我々出家者によくいちゃもんをつけるという話はいろんな所で聞いていました。
 とうとう私にもからんできたかと、正直言ってうんざりした気持ちになりました。
 ここで彼に邪魔をされたら、弟子達を教育する貴重な時間を奪われてしまう。
 早く退散してもらうにはどうしたら良いだろうか?
 彼の話に応じれば、議論となって果てしなく無駄な時間が過ぎてしまうだろうし、無視するのも失礼だ。
 仮に無視したところで、彼の性格ならば、一方的にまくしたててくるかもしれない。

 そこで私はあたりさわりのない返事をして、のらりくらりやってやろうと考えたのです。
『あなたがいつもおっしゃる通り言葉は幻ですから、私も言葉でわからせようなどとは期待してはおりません。
 尊師の考案した三十七の修行法を実行させることが宇宙と合体する唯一の方法だと思っていますよ』

 彼は私の言葉を聞いてにこやかに頷きました。
『それは結構なことです。それではあなたは三十七の修行法をマスターしたのですね?』 

 嫌味な人だと思いましたが私は丁寧に返事しました。
『私ごときはとても足元にもおよびません。マスターしておられるのは現世の人間では尊師のみです』

『失礼ですが、あなたはお弟子さんに対する観察が足りないのではないですか? 
 あなたは霊眼を備えていらっしゃるのだから、まずお弟子さん達の実体を確認すべきですね。
彼らが実体としてすでに知っている知識を言葉という歪曲した形で詰め直しても、本人の害悪になるだけなのではありませんか?』

 弟子達も、何事かと彼の発言に注目したので、私としても反論せざるを得なくなりました。
『私の実力では、自分が到達した境地までしかこの者達に伝えることしかできないのです。
 私の役目は彼らを私と同程度のレベルに引き上げ、彼らが尊師の教えを効率よく受けられるよう努めるだけです』

 しかし、彼は執拗に食い下がってきました。
『あなたはお弟子さん達の現象面をレベルアップさせたいのですか。それとも実体をレベルアップさせたいのですか?』

『現象のレベルを上げても意味はありません。現象に捉われず実体に踏み込むことを心がけていますよ』

『私が察しますに、このお弟子さん達は皆過去世で頭頂のチャクラを開き、宇宙知識をある程度理解していらっしゃる。
 たまたま現世で忘れているだけのように見受けられるのですが?』

 彼がこのようなことを言うので、私も弟子達も顔を見合わせました。
 私の目には彼らが喉のチャクラまでを開いているのしか確認できません。

 彼は弟子達に向かって言いました。
『お弟子さん方、私の目を見てご覧なさい』
 弟子達がつられて振り向くと、あっという間に彼の催眠術にかかってしまいました。

『君達の過去世を見せてあげよう。
 ほら、見えるね。そう、ここは地球ではない。中央にいらっしゃるのがその星の覚者様ですね。
 思い出しましましたか。君達はその星で覚者様の指導を得て、頭頂のチャクラを輝かせましたね』

『思い出しました。ヴィマラキールティ様。私どもは過去世で覚者様の弟子をしておりました』
 弟子達が一斉にこのように言ったので、私は驚きました。
『頭頂のチャクラまで開発した者が凡夫としてこの世に転生してくるなんてことがありえるだろうか?』
 私は思わず叫んでしまいました。

 すると、弟子の一人が言いました。
『プールナ様。使命ですよ。宇宙知識からいただいた使命です。
 自分よりもまず他者を救う教えを実践するためです』

 ヴィマラキールティさんは嬉しそうに言いました。

『どうやら思い出してくれたようですね。
 いくら頭頂のチャクラが輝こうと、それが宇宙知識の目的に叶うわけではないのです。
 尊師も、チャクラの開発のみにこだわるのは外道の教えだ、と退けていらっしゃるのはこのようなわけなんですよ』

 尊師よ。良い機会です。お教えください。過去世を見る能力のない私は後進の指導などできないのでしょうか?」

『そんなことはないよ。君の説法は弟子達の中で随一だ。
 今後も後進の指導を続けてくれたまえ。
 ヴィマラキールティ君も口はあまり良くないが、悪気のない人物だよ。
 彼も言ってただろう。霊眼を備えているんだから、弟子達をよく観察しろとね。
 これは彼の心からの忠告だよ。
 観察する時何も考えないのがこつなんだ。
 すると、宇宙知識のほうで、必要とあれば、君の脳裏や弟子達の心に過去世を出現させてくれる」

「すると、彼のやったことはまやかしではなかったんですね。
 いったいあの人は何者なんですか。もしや、あの人はすでに覚者の域に達しているんですか?」

写真提供

ネパール政府
インド政府観光局
NASA

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