『宇宙知識を創造神と見なせば、大霊という言い方でもかまわないが、それを人格のイメージで捉えると、本質を見誤ってしまうよ。
 我々は宇宙大霊とやらの餌ではないよ。
 むしろ宇宙知識から無条件でエネルギーを得ている存在なのだ』

 娘はむきになって反論した。
『でも、マーラ様は、私達はこの宇宙の大霊に侵略され滅ぼされた以前の大霊の直系の子孫だともおっしゃっていました』

『確かにこの宇宙には始めがあり終わりがある。しかし、それは現象空間の宇宙の話で、真空の宇宙には時間など存在しない。
 だから、誕生も消滅もないのだよ。
 マーラ先生がおっしゃったように、君達が以前の現象宇宙で誕生した霊の子孫であることは本当だ。
 しかし、実は私もマーラ先生と同じ前回の現象宇宙で誕生したんだ。
 後輩のヒラニアガルバ君などは、そのまた以前の現象宇宙で誕生している。
 だから、君達の持っているこだわりなど、全く意味はないんだ。

 侵略とか滅亡などという言葉はロマンティック過ぎて適当ではないね。
 拡張と収縮という言葉の方が適切だ。
 この宇宙は確かに拡張している。ちょうどあなたの胸が膨らんで、空気を吸っているようにね。
 しかし、吸った空気はいずれ吐かなければならない。その時、排出される空気が、滅ぼされるとか、侵略されたなどと文句を言うだろうか?』

 代表格の娘は納得のいった表情になった。

 今度は全裸に装身具だけを纏った娘が言った。
『私達、体を使って楽しむのは好きだけど、頭を使うのは苦手なの。
 だから、あまり面倒なことを要求しないでくださいね』

『頭を使わないことはすばらしいことなんだよ。
 それが宇宙と合体する最短の方法なんだ。何も考えない。何も思い浮べない。そうすれば、迷うこともなくなり、本当の世界が見えてくるんだよ』

『私はセックスしている時が一番楽しいと思うんだけれどなあ』

『薬を使って楽しむ方法は知っているかな?』

『そうねえ、薬も気持ちいいわね』

『でも、セックスにしても、薬にしても、楽しいことばかりではないだろう?』

 すると、頷く娘も多くいた。
『セックスしていても、痛い時や、苦しいときもあるわ。それに、体の調子の悪い時は疲れるし……』
『薬の場合も同じね。薬が切れた時我慢しなければならないのは辛いわ』

『それは全て体を使って楽しもうとしているから、そう言う問題が起こるんだ。
 体を使った楽しみなんかたかが知れている。体なんか使わないで楽しんだほうが遥かに気持ちいいんだ』

『でも、やり方が面倒臭かったら、かったるいわ』

『簡単なやり方を教えてあげよう。
 これから君達を快楽惑星に連れていってあげよう。そこに行くと、体の感覚がなくなってしまう。
 だから体のことを考えることがなくなってしまうんだ。
 後はちょとしたコツを掴むだけで凄い体験ができるんだよ』

『おもしろそうだわ。おじさん、そこへ連れていって!』
 娘達は彼の話の興味を持ち、一斉にせがみました。

『じゃあ、さっそく連れていってあげよう。さあ目を瞑ってごらん』
 彼がそう言うや否や、娘達はその場で気絶してしまいました。彼の得意とする集団催眠術を行なったのです。
 どこの星でも娘達は暗示にかかりやすいから、一人が倒れると続け様におもしろいように気絶していきました。

 その後彼は娘達を屋内に運ぶように私に依頼しました。
 そこで、私は部下に命じて私の官邸に運ぶように命じました。千二百人もの娘達でしたから結構手間がかかりました。

 来客用の広間に娘達を寝かせると、彼は眠っている娘達に執着心を捨てる暗示をかけました。
 途端に娘達の寝顔は晴れ晴れとしたものになりました。

 目が覚めた後、娘達は見違えるように従順になり、肉欲への執着はかなり薄らいだ様子でした。

 ヴィマラキールティさんは娘達の世話を私に委ねてサハー星にお戻りになりました。
 私は娘達に老人介護の仕事を与え、衣食住のための宿舎を用意しました。

 数ヵ月後パーピヤス星人が再び来訪し、娘達の返還を要求してきました。
 私の一存では返答しかねましたので、サハー星に連絡してヴィマラキールティさんのお越しを願いました。
 彼はパーピヤス星人の虫のよい要求に快諾して、娘達の返還を約束しました。
 この話を聞いた娘達は、『パーピヤス星に戻って肉欲の奴隷に戻るのは嫌だ』と泣いて抵抗しました。
 しかし、彼は娘達に、
『本当の楽しみを得るためには、この世での修行は避けて通れない。
君達は本当の楽しみをもう体験したのだから、どのような場所にいようとも以前のように道を間違えることはもうないから心配はいらないよ』
 と諭して娘達を送り出しました。

 ゴータマ覚者よ。ヴィマラキールティ霊にはこのよう弁舌の才能が備わっています。
 ですから、私が彼の治療をすることなど不可能というものです。

 ジャガティンダラ霊がこのように述べた時、部屋の中にいた長老達は嘆息した。
 何ということだ。ボランティア霊でさえもヴィマラキールティさんの治療ができないとは……。
 いったい、彼ほどの人物がどのような理由で病気などになったのだろう。
 ゴータマ師も弟子たちの腑甲斐なさに失望の念を隠せずにいた。

 そこへ若い弟子が入室して、ゴータマ師に、
「スダッタ長者様がお越しになられました」と告げた。

 ゴータマ師は彼をこの部屋に通すように命じた。
 ほどなくして、この修行場の地主のスダッタが姿を現した。

「尊師様ご機嫌麗しゅうございます。おや、これは長老方、一堂に会されるとは、さては大切な会議のお時間でしたか。
 とんだお邪魔をいたしました。私はちょいと世間話をしにきただけですので、また日を改めてお邪魔いたしましょう」

 重苦しい雰囲気を察してスダッタは慌ててその場を立ち去ろうとしたが、ゴータマ師は彼を呼び止め、席に座るよう促した。
 シャーリプトラは慌ててスダッタのための座席を作った。

「スダッタさん。ちょうどいいところに来てくれました。実はお願いしたいことがあったんですよ」

 勧められるままに着座したスダッタは、ゴータマ師にこのように言われて、不審な表情を浮かべた。
「尊師ご自身から私ごときにご依頼とはどのようなことでしょうか?」

「あなたはヴィマラキールティ君と親しくなさっていますね。彼が病気で倒れたという話はお聞きになりましたか?」

「はあ、うかがっていますが」

「あなたにお願いしたいのは、少しご足労願って彼の病気の治療をしていただけないかということなんですよ」

「尊師、ご冗談をおっしゃられても困ります。私ごときにそのような大それたことができようはずがございません。
 そのようなことでしたら、こちらに控えておられる長老方のほうがご専門なのではありませんか?」

「そのようなことはありません。あなたが卓越した治療能力をお持ちなことは聞いておりますよ」

「確かに、ボランティア活動として、病気の人に治療の真似事をしたことはありますが、相手がヴィマラキールティさんではご勘弁願うしかありません」

「ほう、またそれはどうしてですか?」

「尊師も意地の悪い方ですな。全てお見通しでしょうに……。
 仕方ありません。恥を忍んでお話いたしましょう。恥をかくことも修行の一環でしょうから。

 今から十一ヵ月ほど前になりますが、私の家でチャリティパーティを行なっていた時のことです。
 ちょうど七日間開いていたのですが、各界の有力者の方々に集まっていただき、多額の寄付をいただきました。
 この資金をもとに、貧民街に救済センターを建設する予定だったのですが、パーティの最中庭を貧民に開放して食事や金品の施しを行なっていました。

写真提供

ネパール政府
インド政府観光局
NASA

その他




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